タイの寺院で服装を理由に入場を断られるのは、特別なことではありません。とくに王宮とワット・プラケオ(エメラルド寺院)は禁止する服装を公式サイトに列挙していて、該当すればその場で止められます。
やっかいなのは、規定の書き方が寺院ごとに違うことです。細かく列挙する施設もあれば、一文だけの施設もあります。一つずつ調べて服を選び分けるのは現実的ではないので、最も厳しい基準に合わせて一着用意しておくのが結局は速い方法です。
王宮は禁止する服装を名指しで列挙している
王宮の公式サイトは、来訪者の服装について「王宮はタイの人々にとって崇敬の場であるため、来訪者は適切な服装をしなければならない」とした上で、禁止項目を具体的に挙げています。
| 禁止されている服装 |
|---|
| ノースリーブのシャツ/ベスト |
| 丈の短いトップス/透ける素材のトップス |
| ショートパンツ/短パン |
| 破れたパンツ |
| 体にぴったりしたパンツ/自転車用のスパッツ |
| ミニスカート/キュロット |
| 寝間着 |
「体にぴったりしたパンツ」「自転車用のスパッツ」が挙がっている点には注意が必要です。丈が長くても、体の線が出る素材のものは対象に含まれると読めます。レギンスという語そのものは公式サイトに登場しませんが、この項目に照らせば安全とは言えません。
なお、肩や膝を何センチ覆うべきかという数値基準や、サンダルの可否については公式サイトに記載がありません。日本語の情報では「ビーチサンダルは不可」といった説明をよく見かけますが、公式に確認できる記述ではないため、断定はできません。判断に迷う履物は避けるほうが確実です。
寺院ごとに書きぶりが違うので、基準は自分で揃える
ワット・ポーの公式サイトの表現は、王宮と比べるとずっと簡潔です。「女性は膝より上の丈の短いパンツで境内に入らないことを推奨する」という一文で、禁止項目の列挙はありません。
書きぶりの差は、実際の運用の厳しさの差と同じとは限りません。公式に明文がないからといって許されるわけではなく、現場の判断で止められることはあります。逆に、明文が厳しい王宮の基準を満たしていれば、他の寺院で問題になることはまずありません。
したがって実務的な結論は一つです。肩と膝が隠れ、体の線が出ない、透けない服装を一組用意する。これで寺院ごとの規定を調べる必要がなくなります。暑季に長ズボンが辛いなら、薄手で通気性のある長丈のものを選べば体感はかなり変わります。
借りられることは多いが、あてにして行かない
服装で止められても、その場で羽織りものを借りたり買ったりできることは多くあります。王宮や主要な寺院の周辺には、スカーフや巻きスカートを貸し出したり売ったりしている店が出ています。
ただし、これは公式に案内される類のものではありません。王宮の公式サイトに載っているのは音声ガイドの貸し出しや案内所、飲食施設で、服の貸し出しについての記載はありません。どの店があるか、いくらか、その日に営業しているかは、いずれも保証されていないということです。
止められてから探すと、入場までの時間も出費も余計にかかります。着ていく服で条件を満たしておくほうが、結局は面倒がありません。
堂内では足の向きが問われる
タイ国政府観光庁は、足の裏を不浄とみなす文化があることを明示し、仏像の前で足の裏を向けないよう案内しています。堂内で座るときは、正座か、脚を後ろに流して足先が仏像と反対を向く姿勢を取ります。あぐらや、脚を前に投げ出す座り方は避けてください。
靴については、本尊を安置する本堂に入る際に脱ぐのが基本です。ただし敷地内のどこから脱ぐかは寺院によって異なります。入口に靴が並んでいれば、そこが境界です。
境内での大声や走り回る行為を控えるようにという案内も、観光庁が公式に出しています。
僧侶との距離には明確な規則がある
女性は、僧侶の体・衣・持ち物に直接触れてはいけません。 これは配慮やマナーの問題ではなく、守るべき規則として観光庁が公式に案内している事項です。
お供えや物を渡す場面では、僧侶が差し出す布の上に置くか、鉢に直接入れます。手渡しをしないための作法なので、布が出てきたら直接渡すべきでない場面だと理解してください。

撮影で問題になるのは、写す対象より自分の姿勢
寺院での撮影を一律に禁じる公式の条文は確認できません。ただし、本堂の内部や特定の仏像について、撮影を禁じている寺院はあります。 禁止の範囲は寺院ごと、さらに同じ寺院でも建物ごとに違います。入口や堂内に掲示が出ていることが多いので、カメラを構える前に掲示と係員の指示を確認してください。
禁止されていない場所でも、問題になるのは撮影の可否ではなく被写体としての振る舞いのほうです。
2017年には、ワット・アルンなどで臀部を露出した写真を撮影しSNSに投稿した外国人男性2人が、出国時に拘束され公然わいせつで処罰される事例がありました。同じ年には、仏塔の基壇を踏んだとしてツアーガイドが逮捕されています。
仏像の上に登る、仏像を背もたれのように扱う、仏像に背を向けて自撮りをする。こうした行為は、罰則の有無を確かめるまでもなく避けるべきものです。
「不敬罪」と仏教への不敬は別の条文
タイの不敬罪としてよく知られる刑法112条は、国王・王妃・王位継承者・摂政に対する誹謗、侮辱、脅迫を処罰する条文です。法定刑は禁錮3年から15年で、対象は王室に限られます。
仏像や仏教に対する不敬は、これとは別の条文で扱われます。宗教的崇敬物への侮辱は刑法206条(禁錮2年から7年、または罰金)、宗教儀式の妨害は207条、宗教物の損壊は360条の2が対応します。
つまり、仏像への不敬行為を「不敬罪に問われる」と説明するのは正確ではありません。保護しようとしている対象も条文も異なります。どちらも実在する規定であり、外国人にも適用されるという点は変わりませんが、混同したまま覚えると理解を誤ります。
仏像は持ち帰る前に持ち出しの可否を確認する
タイでは、骨董的価値のある仏像を国外に持ち出す際、文化省芸術局の許可が必要です。根拠は仏暦2504年(1961年)の古代遺跡・古物・美術品および国立博物館に関する法律で、1992年に改正されています。
土産物店で売られている新品の仏像は、通常この許可の対象になりません。ただし判断基準の詳細や個数の扱いについて、芸術局の公式サイト上で確認できる文書は見つかりませんでした。仏頭のような断片は持ち出しが原則として認められないと報じられています。
価値の判断がつかないものを買った場合は、購入時に店へ確認するか、芸術局または在タイ日本国大使館に問い合わせてください。
一組の服と、三つの原則
準備として必要なのは、肩と膝が隠れ、体の線が出ず、透けない服を一組持っていくことだけです。
現地で意識するのは三つです。足の裏を仏像に向けない、女性は僧侶に触れない、仏像を撮影の小道具にしない。この三つを守っていれば、細かい作法を一つずつ覚えていなくても失礼になりません。
出典:
- 服装の禁止項目: Practical Information(王宮公式)
- 寺院の服装の案内: ワット・ポー公式
- 足の向き・僧侶との接し方: 寺院を訪れる際のマナー(タイ国政府観光庁)
- 刑法の条文番号と法定刑: タイ刑法(112条・206条・207条・360条の2)。タイ語原文のデータベースには到達できず、独立した2系統の英訳で条文を照合
- 仏像の国外持ち出し: 仏暦2504年 古代遺跡・古物・美術品および国立博物館に関する法律(文化省芸術局所管)
- 2017年の摘発事例: 各種報道

