タイの旅程を組むとき、最初につまずくのが距離の感覚です。「同じ国内だから、バンコクとチェンマイは近い」という前提で日程を引くと、移動だけで丸一日が消えます。
タイは南北におよそ1,600km伸びています。これは日本の本州の長さを超える距離です。国土の形が縦に長いため、北の端と南の端では移動が国際線並みになります。
距離の感覚をつかむ
バンコクを起点にした主要な行き先の距離と、移動時間の目安です。所要時間は交通状況や便によって変わるので、幅で示します。
| 行き先 | 直線距離 | 飛行機 | 陸路・鉄道 |
|---|---|---|---|
| アユタヤ | 約70km | — | 列車1.5〜2時間 / 車1.5時間 |
| パタヤ | 約100km | — | 車・バス2〜2.5時間 |
| サムイ島 | 約475km | 約1時間10分 | 飛行機+フェリーで3.5〜4時間 |
| チェンマイ | 約580km | 約1時間20分 | 夜行列車12〜13時間 / バス9〜12時間 |
| クラビ | 約655km | 約1時間20〜30分 | — |
| チェンライ | 約690km | 約1時間30分 | — |
| プーケット | 約695km | 約1時間30分 | バス11.5〜16時間 |
距離は直線で示しています。陸路は山や湾を迂回するため、実際の走行距離は直線距離より2〜3割長くなります。チェンマイへの道路距離は約690〜750km、プーケットへは約820〜850kmです。
距離の感覚をつかむために、日本に置き換えてみます。バンコクからチェンマイまでの直線距離は約580kmで、東京から岡山(約530km)までより少し遠い程度です。 プーケットはさらに遠く、直線で約695km。東京から広島(約670km)までとほぼ同じです。
新幹線のような高速鉄道はありません。そのため、この距離を陸路で移動すると、日本での感覚よりずっと時間がかかります。
行き先ごとに、使える手段が決まっている
移動手段は行き先によって選べる範囲が変わります。バンコクから向かう場合の対応は次のとおりです。
| 行き先 | 到着する空港 | 鉄道 | バス |
|---|---|---|---|
| チェンマイ | チェンマイ国際空港(CNX) | 北線の終点 | モーチット2 |
| チェンライ | チェンライ国際空港(CEI) | — | モーチット2 |
| プーケット | プーケット国際空港(HKT) | — | サイタイマイ |
| クラビ | クラビ国際空港(KBV) | — | サイタイマイ |
| サムイ島 | サムイ空港(USM) | — | サイタイマイ+船 |
| アユタヤ | — | 北線 | モーチット2 |
| パタヤ | ウタパオ空港(UTP) | 東線・1日1〜2本 | エカマイ |
括弧内の3文字は空港コードです。予約サイトや搭乗券では空港名ではなくこのコードで表示されることが多いので、覚えておくと間違えません。 バンコク側はスワンナプームがBKK、ドンムアンがDMKです。
パタヤのウタパオ空港には、バンコクからの定期便がありません。 陸路で2時間ほどの距離なので、航空路線として成り立たないためです。この空港が役に立つのは、パタヤからプーケットやサムイ、チェンマイへ直接向かう場合です。空港自体もパタヤ中心部から40〜50km離れていて、車で1時間ほどかかります。
空港から街までは行き先によって差があります。チェンマイは市内まで約4km、チェンライは約8km、クラビは約15kmと近く、タクシーで20分もかかりません。一方、プーケット空港は島の北部にあり、プーケットタウンまで約32km、ビーチエリアまではさらに距離があります。サムイはチャウエンまで車で10〜15分です。
この表にない行き先にも空港はあります。チャン島へはトラート空港(TDX)、スコータイ歴史公園へはスコータイ空港(THS)が近く、どちらもバンコクエアウェイズが所有・運営しています。南部のハジャイ(HDY)はマレーシア方面、東北部のウドンタニ(UTH)はラオス方面への玄関口です。
バスターミナルは方面で分かれています。北部・東北部はモーチット2、南部はサイタイマイ、東部(パタヤ方面)はエカマイです。市内のどこから出発するかで、当日の移動時間が1時間以上変わります。 行き先を決めたら、どのターミナルから出るかも合わせて確認してください。
サムイ島に船で渡る場合は、スラータニーまで行き、そこからドンサックの港でフェリーに乗り継ぎます。
長距離列車の駅は2023年に変わった
鉄道を使う場合、北線・東北線・南線の長距離列車は、2023年1月からクルンテープ・アピワット中央駅(バンスー)が起点になっています。 それ以前の起点だったフアランポーン駅(この記事の写真の駅)は、近郊列車と東線の駅として残っています。
古い案内には「長距離列車はフアランポーン発」と書かれたものが残っています。アユタヤやチェンマイへ列車で向かうなら、乗る駅はアピワット中央駅です。
サムイ島の空港は事情が違う
サムイ空港は、バンコクエアウェイズが自ら建設し、所有・運営している民営の空港です。同社はサムイのほかスコータイとトラートの空港も所有しています。タイの空港の多くは国の空港公社(AOT)か運輸省の空港局が運営していますが、サムイはその枠の外にあります。
完全な独占ではなく他社も就航していますが、便の大半は同社が運航しています。空港を使える航空会社が限られるということは、選択肢が少ないということです。 日程が動かせない場合は早めに押さえるほうが安全です。
船で渡る場合は、本土側の港はドンサックに集約されています。複数のフェリー会社がドンサックからサムイの各桟橋へ運航しています。
所要時間を決めるのは飛行時間ではない
タイの国内線は、どこへ行ってもおおむね1時間から1時間半で着きます。この数字だけを見ると「午前中に移動して昼から観光」という日程が組めそうに見えますが、実際はそうなりません。
移動全体にかかる時間は、次の合計で決まります。
- 市内から空港までの移動(スワンナプームまで鉄道で約30分、バスなら40分から2時間)
- 空港での手続き(国内線は2時間前到着が一般的な目安。カウンターの締め切りは出発40分前)
- 飛行時間(1時間から1時間半)
- 到着地の空港から市内まで

飛行時間が1時間20分でも、ドアからドアまでは5時間前後を見込むことになります。 渋滞に当たれば、それだけで1時間が上乗せされます。移動日は「半日仕事」と考えて日程を引くほうが、現実と合います。
空港が2つあり、どちらから飛ぶかは固定ではない
バンコクには空港が2つあり、役割が分かれています。
スワンナプーム空港(BKK) は国際線とフルサービス航空会社が中心です。2017年の実績で国際線約4,950万人に対し、国内線は約1,130万人でした。
ドンムアン空港(DMK) は格安航空会社(LCC)の拠点です。タイ・エアアジア、ノックエア、タイ・ライオンエアなどがここを使います。ターミナル1が国際線、ターミナル2が国内線です。
この2つは同じ空港ではなく、市内を挟んで反対側にあります。 国際線でスワンナプームに着き、国内線をドンムアンから乗る日程を組むと、空港間の移動が必要になります。乗り継ぎ時間を短く見積もると危険です。
市内へのアクセスは、スワンナプームがエアポートレールリンクでパヤタイ駅まで約30分、ドンムアンが国鉄ダークレッドラインでバンスー駅まで約20分です。タクシーは渋滞に左右され、ドンムアンから市内までは空いていて約40分、混雑時は1時間を超えます。
同じ行き先でも、両方の空港から便が出ていることがあります。おおまかにはフルサービスの航空会社がスワンナプーム、格安航空会社がドンムアンですが、この対応は固定ではありません。 航空会社が発着空港をまとめて移すことが実際に起きていて、路線ごと・時期ごとに変わります。
予約サイトでは出発地が「バンコク」とだけ表示されることがあります。予約を確定する前に、空港コード(BKKかDMKか)を必ず確認してください。 間違えると、市内を横断して反対側の空港へ移動することになります。
夜行列車とバスは「宿泊を兼ねる移動」
バンコクからチェンマイへは夜行の寝台列車が走っています。所要は12〜13時間で、飛行機と比べれば圧倒的に遅い移動です。それでも選ばれるのは、夜のうちに移動して朝に着くため、移動時間と宿泊時間が重なるから です。
寝台には等級があります。1等は2人用の個室で鍵がかかり、2等は通路に面した開放型で、昼間の座席を夜になって係員がベッドに変える方式です。2等はカーテンで仕切るだけなので、個室の静けさを求めるなら1等になります。なお、等級によって列車の所要時間が変わるわけではありません。
夜行バスも同じ考え方で使えます。こちらは車両ごとに等級が分かれていて、VIPと呼ばれる車両は座席数を減らしてリクライニングを深く倒せるようにしたものです。
移動時間を睡眠に充てられる一方、体力の消耗は飛行機より大きくなります。翌日に予定を詰め込まない日程にしておくのが無難です。
鉄道で行けない場所がある
タイの鉄道網は全土をカバーしていません。プーケットには鉄道が通っていません。 最寄りの駅はスラータニーで、バンコクから鉄道で9〜11時間、そこからさらに陸路で200km近くを移動することになります。
サムイ島も同様で、船を使わない限り到達できません。バンコクからの直行便はバンコクエアウェイズが運航していて約1時間10分、これを使わない場合はスラータニーまで飛行機か列車で行き、陸路とフェリーを乗り継ぐことになります。この経路だと合計3時間半から4時間が目安です。
行き先によって「鉄道が選択肢に入るかどうか」が変わる、という点は日程を組む前に確認しておく価値があります。
日帰りできる距離もある
アユタヤは例外的に近く、バンコク中心部から鉄道で71kmです。特急で約1時間半、普通列車で約2時間。車なら約1時間半で着きます。列車で行くならアピワット中央駅からになります。旧市街も歩いて回れる範囲にまとまっているため、日帰りで十分に成立します。
パタヤも車で2時間から2時間半の距離で、高速道路(モーターウェイ7号線)が整備されています。日帰りも可能ですが、海で過ごす時間を考えると1泊するほうが余裕があります。
タクシーと貸切車も現実的な選択肢
近郊へ向かうなら、タクシーや貸切車で直接行く方法があります。バスや列車の時刻に縛られず、荷物を持って乗り換える必要もありません。人数がまとまれば、一人あたりで見て割高にならないこともあります。
空港から乗る場合は、必ず公式のタクシー乗り場を使ってください。 スワンナプームは1階のGate 4〜7の間、ドンムアンはターミナル1がGate 8の隣、ターミナル2がGate 15の隣にあります。到着ロビーで声をかけてくる客引きには応じないでください。
料金の仕組みには知っておくべき点があります。20km以内の短距離はメーター制ですが、それを超える距離では運輸省の定めに基づいて乗客と運転手が合意した料金で走る方式も認められています。そして、空港のサーチャージと高速道路の料金は、運賃とは別に乗客が負担します。 これを知らずに降車時の請求で揉めることがあります。
県をまたぐ移動も制度として認められているので、空港からパタヤやアユタヤへ直接向かうことができます。空港内にはリムジンのカウンターもあります。
配車アプリを使う方法もあります。タイでは2021年の省令で、定員7名以下の自家用車による配車が制度として認められました。2026年9月時点では、Grabが最も広く使われていて、ほかにBolt、InDrive、Maximなどが営業しています。
アプリは県をまたぐ移動にも対応していて、距離に応じた運賃が乗る前に提示されます。事前予約もできるので、到着時刻が分かっているなら押さえておけます。ただしアプリのレンタル機能(車だけを借りる形式)は、乗車した都市の中だけに限定されています。 都市間の移動には使えません。
なお、配車サービスの参入や撤退は起こります。渡航前にアプリが使える状態か確認しておくと確実です。
一日単位でドライバー付きの車を借りる方法もあります。複数の場所を回る、荷物が多い、子供や高齢者と一緒、といった条件では、公共交通を乗り継ぐより負担が小さくなります。手配はオンラインの予約サイトや現地の旅行会社を通すのが一般的で、日本語で対応するサービスもあります。
日程を引くときの考え方
移動手段を選ぶ基準は、距離ではなく「その日に何をしたいか」で決まります。
- 到着日に観光したい → 飛行機。ただし移動日は半日が消える前提で
- 宿泊費を移動に充てたい → 夜行列車・夜行バス。翌日は軽めの予定に
- バンコク周辺だけ → アユタヤは日帰り、パタヤは1泊が快適
便数やダイヤは季節や年によって変わります。ここに挙げた所要時間は目安として使い、実際の予約時に最新の時刻を確認してください。
出典:


